第61話|冷却は進化か、摩耗か

冷却を進化と呼んできた。
だが、もし使命そのものが揺らいだら。
俺は何を守っているのか。

「先生、情ありますか?」

笑いながら。
だが真顔でもあった。

俺は笑って返した。
「あるわ。出してないだけ」

そのとき、俺は進化している側にいるつもりだった。
情に流されない。
必要な温度だけを使う。
深度を選び、介入の精度を上げる。

だが相手の目には、
“削れた先生”に見えていた可能性がある。

デミア
ねえ。それ、本当に進化?
自分の変化、ちゃんと測れてる?

選んでいるのか、寄っているのか

冷たさがなければ伝わらないことがある。
そう思っていた。

だが最近は違う。
気づけば、冷たい言い方になっているときがある。

選んでいるのか。
それとも、反応がそちらに寄っているのか。

強い者には冷却。
弱い者には温度。

平等ではない。
必要度で深度を決める。

全員に刺さる必要はない。
それは、とっくに捨てた。

デミア
“必要”って便利な言葉だよね。
それ、自分の都合と混ざってない?

俺は最近、
「あ、今ちょっと冷たかったな」と
後から気づくことがある。

気づく。
……だが戻らない。


精度の代償

生徒の矛盾が見える。

表情。
間。
沈黙。
空気の揺れ。

壊し、再構成する戦略が自然に浮かぶ。

介入の精度は上がっている。

だが同時に、
共鳴の幅は狭まっている。

深く刺す者は増えた。
だが、広く包む感覚は減ったかもしれない。

デミア
正確であることと、
温かいことは別だよ。
その別回路、
切り離しすぎてない?

進化か。
摩耗か。

まだ判定しない。


線を越える瞬間

怖くはない。

何かが失われているかもしれない。
だがそれを、静かに受け入れている。

使命人間になるには、
削れるものもある。

だが一つだけ、線を引いている。

もし将来、

「あ、今ちょっと冷たかったな」
にすら気づかなくなったら、

それは何かが失われた証拠だ。

デミア
……もしさ。
そもそも“使命”が間違ってたら?

削ったもの、
全部無駄だったらどうするの。

……。

俺は、そこで即答できなかった。

それでも、今はこの方向で行く。

だが、もし足場が崩れたら。

そのとき初めて、
俺は何を守っていたのかを知るのかもしれない。

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